第8回
天然繊維のはなし 2
繊維を大別すると、天然繊維と化学繊維に分かれます。天然繊維とは自然界に存在しそのまま繊維として使用されるもので、植物(セルロース)繊維と動物(タンパク質)繊維そして鉱物繊維に分けられます。
今回は動物(タンパク質)繊維のはなしです。
動物(タンパク質)繊維
絹(SILK)
絹は蚕が繭を作るときに出す繊維です。天然繊維の中で唯一の長繊維で、一つの繭から約1000メートル得られます。断面が三角形なので光沢があり、また細いので肌触りが良く軽くしなやかな風合いで、テキスタイルにした時にきれいなドレープが得られます。染色性、吸湿性、通気性にも優れますが、家庭洗濯が難しい、紫外線で黄変しやすいなどの欠点もあります。フィブロインと呼ばれるたんぱく質繊維で、燃やすと髪の毛と同じ匂いがします。養蚕業は明治以降日本の主要な外貨獲得源でしたが、現在国内外の生産量は減少傾向にあります。全生産量は約20万tで、繊維生産量の約0.2%です(2017年現在)。
● 繭から出る蚕蛾

家畜化して野生回帰能力に乏しいデリケートな昆虫なので、交尾が終われば数日で死んでしまいます。現在、繭の色は殆ど白色ですがこれは突然変異です。大正時代ごろまでは黄色やピンク色などのカラフルな色が多かったようです。
● 桑の葉

蚕の食糧です。栄養豊富な果実は甘酸っぱくて美味しいですが、今では日本国内ではあまり見られなくなってしまいました。
● SILK(フィブロイン)繊維の走査型電子顕微鏡写真(精錬後)

セリシンと呼ばれるたんぱく質からなる粘着成分を除去して収束した状態です。除去されたセリシンは十数種類のアミノ酸からなり、化粧品など繊維以外の分野に役立てられています。
動物(タンパク質)繊維
羊毛(WOOL)
ウールは牧羊の毛です。最大の生産地はオーストラリアで、ニュージーランド、フランスと続きます。羊の種類は約3000種と言われており、最も有名なのがメリノ種です。天然繊維の王様と評されるウールの性能は保湿性と保温性に優れ、シワになりにくく、弾力性に富み、染めやすく色落ちしにくいといった長所があげられます。短所は、洗濯で縮みやすい、摩擦でピリング(毛玉)になりやすい等です。 生産量は約110万tで全繊維中約1.2%です(2017年現在)。
● 羊毛(メリノ種)

メリノ種は生息地が広く、生産量が最も多いので羊毛の代表です。
● 羊毛繊維の走査型電子顕微鏡写真

スケールと呼ばれるウロコ状の表皮がコルテックス(中央部分)を保護しています。私たち人間の髪の毛も同様にスケールで保護されています。
動物(タンパク質)繊維
獣毛
獣毛とは羊以外の動物から得られる毛繊維の総称です。最も有名なのがカシミヤヤギからとれるカシミヤです、古くから高級素材として使用されてきました。羊毛に比べると細くて独特な光沢が有り保温性に優れています。その希少種パシュミナはあまりにも繊維が細くて繊細なので機械では紡績できず全て手作業で製品化するまさに「繊維の宝石」です。
アンゴラヤギからとれるモヘアは、ハリと優雅な光沢感が特徴で、ウールと併用されることもあります。他に南米原産のアルパカやビキューナなどラクダ科の動物の毛があります。
● カシミヤ繊維の走査型電子顕微鏡写真

● アンゴラ(モヘヤ)繊維の走査型電子顕微鏡写真

カシミヤもアンゴラ(モヘヤ)も羊毛に比べると、細くてスケールがきれいに配列されています。これが、高級品の証です。
●次回は化学繊維のはなしです。
写真提供:信州大学繊維学部Fii施設